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読了記念

石川啄木」読了記念短歌

鳴戸鬼院の「石川啄木」入荷せりと

 電話ありけり、進退維谷まる

 

北海道の地図を拡げて啄木の

 一所不住の軌跡をなぞる

 

さいはての駅の時計は午後の九時

 三十分より微動だにせず

 

妻節子におもんばかることあるらしき

 釧路想望歌を読む面白さ

 

零下二十九度の冬のみを知り春と夏

 秋をも知らず生き急ぐ啄木 

 

妹光子の恨みつらみを露ほども

 知らず愛唱したる啄木

 

性を買ふ摩訶不思議なる行ひを

 思へばこころを過ぎる酸漿

 

「大逆」の時代に遭遇せしことも

 石川啄木の定めのひとつ

 

遠いむかしのことでおじゃるよ、無政府を

 理想としたること吾にもあり

 

部隊駐屯地美瑛より人妻に

 文書き送るをとこの心

 

家族皆病む中に病む啄木を

 離脱し此処に一人寝てゐる

 

函館の青柳町を訪ね行く

 ことありや、ゆめあるまじき

 

 ライラック花の死骸に八月の

  雨降る景を見に行くことも

 

見ぬ世への想ひ出として釧路湿原に

 沈む夕陽を一目見るべし

 

アパートの急階段を登り行く

 買物弱者も百代の過客ぞ